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生物に使われるタンパク質が全て生体由来である理由

索引

  1. 生体内のタンパク質は生体内で合成されたものに限られる
  2. タンパク質の構造は考えられないくらいに高度に制御されている
  3. 地球にもともとあったタンパク質は生命発生に関与していない

生体内のタンパク質は生体内で合成されたものに限られる

生体内のタンパク質は、なぜ生体外で合成されたタンパク質とは異なるのか

生命の進化の本を読んでいると、生命が誕生する以前にタンパク質が自然界で偶然合成されて、そのタンパク質を利用して生命が発生、進化したとの説が出てくる場合があります。

しかし、生命が地球に誕生した際に、先にタンパク質が存在して、それが生命発生に役立だったという事実はないです。

仮にアミノ酸が多数ペプチド結合したものをタンパク質と呼ぶなら、そのようなタンパク質が、もしかしたら地球における生命発生以前に存在した可能性は、私も否定しません。

けれども生体以外で自然生成されたタンパク質は生体のエネルギー源になるか、または代謝用の原料となることはあっても、それがそのまま生体の体に組み込まれる事実はありません。

現時点で生存する生命体に観測されないし、もしくは過去に存在していた生命体においても確認されないです。

なぜそんな結果になるかというと、生体内で産生されるタンパク質は、偶然では片付けることができないほど完全に規格化されているからです。

タンパク質の構造は考えられないくらいに高度に制御されている

タンパク質の材料であるアミノ酸はそれぞれ二種類ある

生物の体に使われるタンパク質は、アミノ酸からできています。そして地球上の生物のタンパク質に使われるアミノ酸は20種類あります。

それぞれのアミノ酸は、L型(説明の便宜上、左手型と呼びます)と、D型(説明の便宜上、右手型と呼びます)の二種類があります。

アミノ酸のL型かD型かの違いは分子の構造のみに由来します。

L型はD型を鏡に映した構造に完全に一致します。この逆にD型はL型を鏡に映した構造に完全に一致します。一方が他方の鏡像体になっています。

このアミノ酸の関係は、右手の手のひらと左手の手のひらとの関係に似ています。右手と左手は一方が他方を鏡に映した構造の関係になっています。

鏡像体の特徴は、完全に重ね合わせることができない点にあります。

軍手のように表と裏がないものは別にして、表と裏が区別されるものは右手用の手袋と左手用の手袋は別の構造であり、互換性がありません。

左手用の手袋を右手にはめることができないことから、鏡像体には構造の互換性が無いことが分かります。

アミノ酸も同じです。グリシンのように軍手タイプで右手型、左手型の区別がないものがありますが、それ以外のものは右手型(D型)、左手型(L型)の区別があります。

生体外で合成されたタンパク質は規格外のガラクタ品

自然界で偶然アミノ酸ができたとすると、1:1の割合で左手型のアミノ酸と右手型のアミノ酸ができます。

アミノ酸といっても実際は純粋な一種類ではなく、実は左手型と右手型がそれぞれ50%ずつが混じった混合物になっています。

ちなみに右手型のアミノ酸と左手型のアミノ酸を別々に合成する簡単な方法は存在しません。

アミノ酸の原料である水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子のそれぞれを自由に反応できる状態においた場合には、1対1の割合で左手型と右手型のアミノ酸が生成します。

左手型だけを合成するには、結構大変なプロセスを準備する必要があります。

右手型アミノ酸が混入すると最終構造が同じにならない

仮に一種類のアミノ酸が二つ連結されたユニットを考えてみましょう。

一つのアミノ酸に左手型(O)と右手型(X)があります。このため、たった2個の分子の結合であっても次の四種類が生成します。

  1. O-O
  2. O-X
  3. X-O
  4. X-X

実際には生物に使われるタンパク質は、L型のアミノ酸ですので、上記のうち、「O-O」型が実際に使用できるもので、それ以外の「O-X」も「X-O」も「X-X」も生体には使えないです。

一回の反応で、75%のアミノ酸が無駄に使用されてしまいます。

同様に一種類のアミノ酸が三つ連結されたユニットを考えてみましょう。

この場合は次の八種類が生成します。

  1. O-O-O
  2. O-O-X
  3. O-X-O
  4. O-X-X
  5. X-O-O
  6. X-O-X
  7. X-X-O
  8. X-X-X

実際には生物に使われるタンパク質は、左手型であるL型のアミノ酸ですので、上記のうち、「O-O-O」型が実際に使用できるもので、それ以外の「O-O-X」等の「X」が入っているものは生体には使えないです。

全体の構造が「O-O-O」型と「X」が入っているものとでは同じ構造にならないからです。

この場合は、87.5%のアミノ酸が無駄に使用されてしまいます。

仮に左手型のアミノ酸と右手型のアミノ酸がランダムに使用されると仮定すると、現在の生体のタンパク質を作るためには無限のアミノ酸が必要になってしまいます。

タンパク質の分子量が増えるに従って、生体に使用できない無駄なユニットの生成が指数関数的に増えるからです。

生体外で合成されたタンパク質は、そのほとんど全てが実際の生体に使われているタンパク質の構造になりません。「X」が混入するとタンパク質の折れ曲がり構造が変化してしまうため最終構造が同じにならないです。

同じアミノ酸を使ってタンパク質を作った際に、同じ分子量で同じ構造を全ての分子構造で維持するためには、厳密にそれぞれのアミノ酸についてL型のアミノ酸しか使わざると得ない、ということです。

タンパク質が作られる前に、原料のアミノ酸の規格化が厳密になされています。

これは、人間でもサルでもクジラでもキリンでも象でも桜の花でも細菌でも、地球上に存在する全てのタンパク質の材料のアミノ酸は、それぞれについて二種類あるはずの光学活性体のうち、厳密に一種類だけに限定されています。

こうしないと、合成されるたびに異なった構造のタンパク質が生成してしまうからです。

恐ろしいレベルでの規格統一ですね。

人間の世界に例えると、腕時計のネジも自動車のネジも旅客機のネジも完全に同じ構造を持ち、互換性があるということです。

ありえないような話です。

ただこのレベルで規格を統一しないと、一人の人間だけでも数十兆個もある細胞を統一して運用することができないです。

タンパク質の高次構造を制御するためには、それぞれのアミノ酸に二種類ある光学活性体のうち、厳密に一方だけ選んでできたタンパク質は、これは生体内で作られたタンパク質しかありません。

生物の生体内で作られず、自然界にあるアミノ酸が自然反応してできたタンパク質は分子鎖の個々で構造が同じものにならないので、同一物を複製することは不可能です。

地球にもともとあったタンパク質は生命発生に関与していない

地球上の生命の細胞構造は、リン脂質とタンパク質からできてきます。ただタンパク質はリン脂質内外のトンネル構造等に使われていて、細胞の主構造はリン脂質からできています。

このタンパク質は、仮に生体発生前にあったものを自然選択したものであったとすれば、どれ一つとして同じものはないことになってしまいます。

タンパク質を構成するアミノ酸の数が増えると指数関数的に左手型と右手型のアミノ酸の組み合わせ数が爆発的に増加するからです。

生体内にあるタンパク質が、生命の進化の過程において高度に左手型アミノ酸だけを使用するシステムが揃っていない段階で採用されたものであったとしたら、そのタンパク質に左手型のアミノ酸以外に、右手型のアミノ酸の混入を排除することができないので、一個一個違った構造になってしまいます。

ところが実際の現在の生命体に採用されているタンパク質は、左手型のアミノ酸のみで事実上できています。

*例外的に右手型アミノ酸が使用される例はありますが、それは生命発生後、後発的に採用されたもので、やはりタンパク質は左手型アミノ酸のみでできているといってもよいです。

地球上の生命が作るタンパク質はアミノ酸の配列と個数を決めると、構造は全て同じになります。

ところが生体外で合成されるアミノ酸には左手型と右手型があるので、アミノ酸の配列と個数を決めてもタンパク質の構造は同じにはなりません。そして地球にもともとあったタンパク質が生命発生に関与したとしたなら、生命体に採用されているタンパク質が、左手型のアミノ酸のみでできていることを説明できません。

地球にもともとあったタンパク質は生命発生に関与していないといえます。

地球上に発生した生命体は、地球にもともとあったタンパク質を代謝はできるでしょうが、それを自己の構造に組み込むことはなかった。

もしそれがあったとしたなら何らかの証拠が見つかるはずですが、その証拠は残念ながら今まで見つかっていないのです。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

03-6667-0247

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