パンスペルミア仮説から卒業しよう

索引

  1. パンスペルミア仮説とは何か
  2. 生命の種が宇宙空間で分解しない謎
  3. 地球突入時に生命の種が分解しない謎
  4. 生命の種の性質が尋常ではない謎
  5. 宇宙船外壁に細菌コロニーが発見された事例の評価
  6. パンスペルミア仮説の前提に疑義あり

パンスペルミア仮説とは何か

パンスペルミア仮説とは、生命の種になるものが宇宙のあちらこちらに漂っていることを前提に、宇宙に漂っていた生命の種がたまたま地球に根を下ろした結果、地球上の生命が誕生した、との一つの考え方です。

パンスペルミア仮説は地球外生命発生説として非常にロマンに満ちた説です。

地球でもこんな所に植物が育つなんて、という場面に出会うことがあります。植物の種が遠くから旅してきて、あり得ない場所に偶然運ばれて、そこで根付いて花開く場面。なんとも素敵な場面だと思います。

パンスペルミア仮説はこのあり得ない場所に植物の花が開く場合によく似ています。

宇宙を漂っていた生命の種となるものが宇宙空間の果てしない空間を旅した後に地球に辿り着いた。

そして地球上で宇宙からやってきた生命の種が実を結び、地球上に生命が育っていった。

ファンタジーとしてはとても興味深いです。

ただこのパンスペルミア仮説は学説としてあまりにも欠陥が多く、現在の科学水準では受け入れられない過去のものになっています。

生命の種が宇宙空間で分解しない謎

宇宙空間は有機物が耐えられない空間

仮に生命の種が隕石等の表面に付着して宇宙空間を飛んでいたと仮定しましょう。

宇宙空間は筆舌に尽くしがたい過酷な環境です。単に空気がない、というだけではないです。

月の表面温度でさえ、昼間は100℃を超え、夜はマイナス200℃近くまで下がります。
かつてのアポロ計画で月の有人探査が行われたことから宇宙空間はそれほど過酷ではないと感じるかも知れません。

アポロ計画で人類が月に行った際は、一日のうち温度が上がり始める朝遅くに行って、陽が上がりきる午前中の涼しい時間帯に地球に戻ってきています。

つまり月面における完全な夜も完全な昼も、人類はこれまで経験していないし、月面探査が実施された当時の技術では人類が月面上に接して生存できる限界点をほぼ超えた環境、これが月面の真実です。

宇宙空間であれば真空なので熱は宇宙服に直接伝わりませんが、真空空間であっても月面に立っている場合には、月の昼間であれば文字通り加熱された鉄板の上に立っているのと変わりません。

隕石等の表面に付着した生命の種は、隕石が太陽光線が当たる昼側の場合は100℃以上に熱せられ、逆に隕石が太陽光線の当たらない夜側の場合はマイナス200℃近くまで冷やされます。

マイナス200℃に冷やされた有機物はとても脆くなります。

どのくらい脆くなるかは一度はテレビ等の画像でみた方が多いと思います。

薔薇の花びらを液体窒素に漬けた後くらいに脆くなります。

液体窒素の温度はマイナス196℃ですが、この温度になった薔薇の花びらは手で触るだけでばらばらの粉になります。

またタマゴを沸騰したお湯に浸けた場合をみれば分かる通り、複雑な構造の有機物は特殊なポリマーでもない限り100℃以上の温度で変性して元の構造を保つことができなくなります。

それだけではありません。

宇宙には宇宙線が飛び交っています。宇宙空間では宇宙線を遮るものがないので直接有機物に宇宙線が作用します。

DNAやRNA等の自己複製に関与する高分子有機物は宇宙線の影響で簡単に分解します。

また単純な構造の有機物も高エネルギーの宇宙線の直射を受ければこれまた変質するか分解するものがでてきます。

そのような過酷な空間である宇宙空間を生命の種が旅する時間も膨大なものであったでしょう。

地球から太陽に向けて新幹線と同じ時速250kmで今から出発したとしても、太陽に到着するには70年近くを要します。

もしかすると生命の種は数千万年単位、数億年単位の時間、宇宙空間を漂う可能性も否定できないのです。

このような考えられない時間の中を安定して地球まで飛び続けることのできる有機物は果たしてあるでしょうか。

地球突入時に生命の種が分解しない謎

考えられない長い時間を経て、恒星の付近を旅したときのヒートショックの熱とか宇宙線とかの影響もものともせず、やっと地球の近くまできた生命の種があったとします。

まだ地球表面に辿り着く前に関門が待ち受けています。地球大気圏の突入時の隕石加熱問題です。

地球には酸素のない時代がありましたが、原始地球にも大気が存在していたと考えられます。この大気圏に突入した隕石は摩擦熱で数千度の温度に達するでしょう。

ちなみに通常の有機物であれば、有機物の種類や構造に依存しますが150℃以上で分解を始めます。250℃前後で原型を留めなくなり、500℃の継続的環境に耐えるのは耐熱有機ポリマーでも難しいです。

地球の表面に到達する前に隕石そのものすら燃え尽きてしまう温度に生命の種はさらされるのです。その温度に耐えられる有機物としての生命の種は存在しません。

仮に生命の種が地球突入時の温度上昇に耐えられたとすれば、それは隕石の内部深くに生命の種があるため、隕石の岩石が防御壁になって生命の種が守られる場合です。

燃え尽きる前の隕石の内部温度が宇宙の種の分解する温度に達する前に、隕石が地球表面に激突した場合という条件を満たして、やっと生命の種は地球に到着します。

地球表面に激突した衝撃のエネルギーの一部が熱エネルギーに変換されるため、隕石内部にあった生命の種の多くは焼き尽くされるでしょう。

こんなに過酷な扱いを受けてやっと地球に到着した生命の種は、本当に生命誕生の機能を維持しているのでしょうか。

生命の種の性質が尋常ではない謎

あり得ない確率を経て、何とか生命の種が地球に到達したとします。

それでもここで話は終わりではありません。

パンスペルミア仮説によれば地球に到達したとされる生命の種は考えられない性質を備えています。

全ての生命の種が、二種類の光学活性体のうち、厳密に一方の光学活性を持ちます。

もし生命の種が二種類の光学活性を持つのであれば、現在全ての生命体がタンパク質合成に使用するアミノ酸について二種類ある光学活性体のうち、厳密に一方の光学活性体しか使用していないことを説明できません。

生命の種に比喩としての右手と左手の構造があった場合、右手の生命の種は地球に到達せず、左手の生命の種のみが地球に到達したことになります。パンスペルミア仮説ではなぜ左手のみが選択されるのか説明できません。

ちなみに生命の種の光学活性体の物理的性質は、偏光に対する光学的性質が異なるだけで、それ以外の物理的な性質は完全に一致します。

二種類の光学活性体を宇宙空間で簡単に分離する方法は存在しません。

二種類の光学活性体のうち、一方がほんの少しだけ他方よりも性質が違う、と考える方もいるかもしれませんが、それはありません。両者は等価です。

しかも固体状態の光学活性体の混合物の中から一方の光学活性体を取り出す際に、酒石酸の結晶のように例えばピンセットを使って分離可能な例もあります。

しかしこの場合は結晶を観察してこれは左手、これは右手と認識した上で左手に相当する光学活性体だけを取り出す選別メカニズムが必要になります。

この選別メカニズムについてもパンスペルミア仮説は何も答えていません。

ボナー仮説にも欠陥があります

米国のスタンフォード大学のボナー博士は宇宙の種が宇宙空間を飛んでいるうちに特殊な円偏光を浴びて100%の左手型に変化した生命の種が地球に到達した、との旨の説を唱えています。

仮に円偏光を浴びて宇宙の種が変化したというなら、宇宙の種は隕石等の表面に存在します。円偏光は隕石の内部まで及ばないからです。

しかもローストチキンみたいにくるくる回しながらむら無く均等に焼いたなら別ですが、地球に到達した生命の種は本当に特殊な円偏光を全てむら無く浴びたのでしょうか。

ボナー仮説では、第一に隕石表面にあった生命の種が地球大気圏突入時に燃え尽きてしまう問題に答えていません。

また第二に地球に到達した生命の種に、なぜ特殊な円偏光を浴びなかったものが含まれなかったかの問題について答えていません。

パンスペルミア仮説もボナー仮説も自己に都合のよい条件を前提にして論理が組み立てられています。現代において取り上げるに足る学説の域には達していないと思われます。

宇宙船外壁に細菌コロニーが発見された事例の評価

どこかの国のどこかの宇宙船の外壁に、宇宙空間で成長したと見られる微生物が存在したとする話を聞くことがあります。

分子生物学に携わる研究者は、このような話に乗せられないようにご注意をお願いいたします。

宇宙船のロケットは大気圏外にでるために毎秒11.2kmの地球脱出速度を保つ必要があります。

打ち上げの際、このスピードで宇宙船の外壁が大気の摩擦を受けると表面温度は少なくとも1000℃近くに熱せられます。

また宇宙船が地球に帰還するときも宇宙船の外壁が赤熱するほど加熱されますので、これまた1000℃以上に熱せられます。

つまり、宇宙への行き帰りの段階で宇宙船の外壁は加熱消毒殺菌される、ということです。

次に仮に宇宙空間に微生物がいた、と仮定します。

しかしその微生物の成長に必要な物質が宇宙空間に存在しないのです。宇宙生物が成長できる物質がなければ、質量保存の法則からもはや手も足もでません。

このような話があったなら、話を鵜呑みにしないできちんと裏を取るべきです。

この宇宙で成長した微生物が本当に存在したとしたら、一分子生命ビッグバン説でその特徴を予測できます。

  • 宇宙微生物のタンパク質はL-アミノ酸で構成されている
  • 宇宙微生物はDNAを備えている
  • 宇宙微生物のDNAの対塩基はA、G、CおよびTである
  • 宇宙微生物のDNAは右巻きである
  • 宇宙微生物のタンパク質はこれまで知られているアミノ酸でできている

なぜなら、宇宙微生物は宇宙空間で成長できる余地がないため、もし存在したとすれば、宇宙微生物は地球由来であると考えられるからです。

ちなみに宇宙微生物と呼ばれるものが宇宙船の外壁で成長した最も可能性の高い場所は、地球帰還後の地球上です。

微生物コロニーは仮に宇宙船の外壁にあったとしても地球帰還時に焼けて無くなります。

宇宙船の地球帰還後、一段落して宇宙船の外壁が微生物生育に適した温度に下がった後にその微生物が地球上で成長した、というのが最も有力な説であると私は考えます。

パンスペルミア仮説の前提に疑義あり

パンスペルミア仮説が出てきた前提として、生命の種は宇宙からきたに違いないという、結論ありきの先入観があったのではないか、というのが私の推測です。

生命の誕生や進化を考える上で、生命の種を地球外に求めなければならない理由は全くありません。

生命の材料が地球外からきた、というのであれば私も納得できます。でも生命そのものの起源を地球外の宇宙に求めたとしても、生命発生の根本的な問題は解決されません。

反面、一分子生命ビッグバン説では、地球上の生命は、自己複製可能な光学活性のある、たった一つの分子から進化したと主張します。

一分子生命ビッグバン説では、一つの分子から生命の進化が始まったので、最初に必ず光学活性体の右手か左手が一つに決定されます。

そして一度左手に決定されたなら、自己複製によりその左手系列だけがどんどん増産されます。

材料が地球にあれば足り、原始生命体を地球外に求める理由がありません。

また一つの分子から生命の進化が始まったので、自己複製のシステムはDNAの一種類で足ります。二種類以上のシステムを準備しなくても、元が一種類なので準備するシステムは一種類で十分、ということです。

地球上の全ての生命体のタンパク質のアミノ酸がL体だけでできていても何ら不思議ではありません。

もともと一つの分子から地球上の生命は進化したので、その分子の光学活性的な性質を引き継いでいるだけのことです。

さらにDNAの二重螺旋が右巻きの理由についても、もともとが左手型の一つだけなので、その左手型の一つの分子に適合する一種類の右巻きの二重螺旋で対応できます。

一分子生命ビッグバン説に従えば、ありえない前提の上にありえない議論を積み重ねる必要がありません。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘

03-6667-0247

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